【TPP承認案見送り?肩透かしの議論?】

後半国会の焦点となっていたTPP=環太平洋パートナーシップ協定の承認案について、今国会での成立が見送られることになりました。政府は、継続審議にしたうえで、次の国会で成立させたい意向です。

ここまでを振り返ると、協議文書の黒塗りをはじめ、政府の対応に疑問を感じる一方、野党も審議拒否をするなど、肝心の議論に入る前の混乱ばかりが目立ちました。

そして、いざ議論となると「継続審議」というのは実に肩透かしのような気もします。「しっかり議論してほしい」と思いつつ、TPPに対する自分の考えをまとめました。

●TPPとは

TPPは、日本やアメリカなど太平洋を取り囲む12か国で、▽関税の撤廃や引き下げで貿易拡大を目指すほか、▽投資や企業の進出などを行いやすくする共通のルールを定めたものです。12か国の人口は計7億7千万人(世界の11%)、GDPは実に世界の36%を占め、実現すれば世界最大規模の経済圏が生まれます。

12か国は、2月にニュージーランドで署名。これを受け、各国では協定の発効に向けて議会の承認を求める国内手続きが進められていて、日本では▽国会承認を求める議案と、▽関連する11本の法律の改正事項を1本の法案に取りまとめた関連法案が、今の国会に提出されました。

●黒塗りはありえないが・・・

審議入りにあたって、まず問題になったのが、政府から開示された「交渉の協議文書」で表題以外はすべて黒塗りに。一方、衆議院の特別委員長を務める西川元農水相が出版する予定だった本に対しては、政府が交渉過程の情報を提供したのではないかという疑念が出て、審議拒否に発展するなど、議事運営を巡り混乱が続きました。

そして、ようやく議論に入ったかと思えば、先送り論が出てきて、TPP議論は肩透かしになったというわけです。日本経済の将来を決める案件にしては、実に残念なことだと思います。

まず、黒塗りの問題について言えば、政府の「交渉過程は明かすものではない」という主張に一理あるとしても、こうしたものを平然と出してくる無神経さにびっくりしました。今の情報公開の時代から逆戻りした、昔の「よらしむべし知らしむべからず」という言葉を思い出しました。

また、野党の審議拒否もほめられたものではないと思います。政府の非は誰が見ても明らかで国民に示せば十分に伝わります。あとは、国民の判断に委ねればよいだけで、本題議論に入らずに政局化しようとしたのはおかしいと思います。

●承認すべきかどうか

では、承認案を認めるべきかどうか? 私は認めるべきだと思います。
政府は、TPPによる貿易や投資の拡大で、GDPを14兆円押し上げる効果があると試算しています。どこまで根拠のある試算なのか分かりませんが、これまで国内市場に注視しがちだった目を海外に向けさせる効果は大きいと思います。

例えば、農産物で言えば、日本は、現在、ほかの国に比べて際立つほど輸出をしていない国です。しかし、驚くことに、今から50年前は、日本の輸出額は欧米各国と同じくらいあったのです。その後の半世紀で、▽イギリスは20倍、▽ドイツは70倍に増やしたのに、日本は10倍ほどにとどまっていたのです。世界市場から目を背けてきたことがよく分かります。

●農産物の影響は

それでも、政府の試算では、農林水産物への影響について、輸入が増えることなどで最大で2100億円減少するとしています。

農林水産物の重要5項目の▽コメ、▽麦、▽牛肉・豚肉、▽乳製品、▽砂糖の原料では、合計594品目のうち71%に当たる424品目が関税撤廃の対象から外れました。森山農水相は、「約3割の品目で関税撤廃となるが、輸入実績のないものや、国産品に取って代わる可能性が低いものなどで、全体として影響が出ないよう措置している」と答え、センシティブになっていることが分かります。

●二者択一で考える必要はない

私は、こうした「TPPが農業に影響を与える」といった二者択一的な議論に違和感があります。TPPと農業再生の両立が可能であることをもっと訴えるべきだと思います。そして、その農業再生とは、今の“過剰な農業保護”とも違うことを説明していく必要があると思います。

過去に自由化を機に、逆に競争力が増したサクランボや牛肉のケースがあります。いずれも競争から逃げていたら発展はなかったと言え、農家支援に加えて、商品差別化の研究開発を進めることが重要になってくると思います。

●丁寧な質疑を

アメリカ議会での承認は11月の大統領選以降になるとみられています。なので、今回、見送りになったとしても、日本に対して「発効が遅れる」といった批判は起きないと言われています。

TPPは、5年先、10年先を見据えた重要な政策です。さらに、日米主導のアジア太平洋秩序を構築することで、安全保障上も兼ねた対中国包囲網の目的もあります。

秋に見送りとなった以上、決して政局にせずに、国民の理解の下で丁寧に審議してほしいと思います。